リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

睡眠薬のリスクもろもろ-1(エスゾピクロンと転倒・骨折)

ベンゾジアゼピン系薬と転倒・骨折との関連についてはよく知られているところですが、何やらエスゾピクロンは他剤に比べて転倒率が低いということを聞きまして、ちょっと調べてみました。

 

まずは理論的なところから。特にGABAA受容体のサブユニットとのの関連があるようです。こちらにまとまってます。

http://medical.eisai.jp/products/lunesta/symposium/20150724/

ここでルネスタ®の製品情報ページを持ち出すのは問題があるかもしれませんが…

 

さて、日本の報告からみていきます。説明会や講演会でよく使われる文献を二つ。

循環器科入院患者における転倒・転落と睡眠薬処方について : 睡眠専門医の介入

(これはどこを探しても、ネット上では全く読めないようで…)

Z-drugとベンゾジアゼピン系睡眠薬の転倒率調査

(このサイトで、要旨のみ閲覧可能です。)

 

てことで、〇ーザイの担当者に持ってきていただいて読んでみました。(頼んだら喜んで持ってきてくれるはずです。いい結果が出てますからね。)

①は、ベンゾジアゼピン系薬からZ-drugへの切り替えと多剤併用を控え、低用量で使用することを医師へ推奨、または、不眠のクリニカルパスブロチゾラムからエスゾピクロンへ変更することで、転倒(中でも睡眠薬投与群の転倒が)大幅に減少し、中でもエスゾピクロンの転倒率は他剤よりも大幅に少なかった、というもの。

②は、ゾルピデムブロチゾラム、ゾピクロン、エスゾピクロン、トリアゾラムエスタゾラムの服用患者おける転倒率を調査したところ、エスゾピクロンによる転倒率が最も低く、さらに、主な睡眠薬の転倒率と1人あたりジアゼパム換算値の相関性を調査したところ両者に正の相関が見られた、というもの。

 

どちらもツッコミどころはあるのですが、それなりに差がついているので信ぴょう性はあるのかなという印象です。

 

さてさて、英語の文献は一つだけ見つけることができましたので、紹介します。

Nonbenzodiazepine Sedative Hypnotics and Risk of Fall-Related Injury.

(非ベンゾジアゼピン系催眠鎮静剤と転倒関連外傷のリスク)

Sleep. 2016 May 1;39(5):1009-14.

PMID: 26943470

 

P:2007年〜2009年の間に外傷性脳損傷(n=15,031)または大腿骨近位部骨折(n=37,833)のいずれかで入院した65歳以上のメディケア加入者

E:外傷による入院前30日間および外傷の3,6,9,12か月前の4つのコントロール期間の前30日間のゾルピデムエスゾピクロン、ザレプロンの使用

C:上記期間におけるゾルピデムエスゾピクロン、ザレプロンの非使用

O: 外傷性脳損傷または大腿骨近位部骨折のリスク

 

デザイン:ケースクロスオーバー試験

交絡因子:調整されていない

 

結果

1次アウトカム(外傷性脳損傷または大腿骨近位部骨折のリスク)

vs 非服用群 オッズ比(95%CI)
外傷性脳損傷 大腿骨近位部骨折
ゾルピデム 1.87(1.56-2.25) 1.59(1.41-1.79)
エスゾピクロン 0.67(0.40-1.13) 1.12(0.83-1.50)
ザレプロン 0.85(0.23-3.34) 0.92(0.40-2.13)


サブ解析(外傷性脳損傷又は大腿骨近位部骨折前の1か月ごとのゾルピデム服用率) 
f:id:gacharinco:20171209232740p:plain

エスゾピクロンとザレプロンの服用率は、外傷性脳損傷ではそれぞれ0.4%、0.0.3%で一定、大腿骨近位部骨折では0.4%、0.04%で一定だったとの記載あり。(本文中の外傷性脳損傷におけるエスゾピクロンおよびザレプロンの服用率は誤植のようで、逆になっているようです。Supplementary data参照。)

 

感想

ザレプロンは日本で発売されていないのでおいといて…

エスゾピクロンの使用率が低すぎるのは若干気になりますが。ケースクロスオーバー試験を読むのがほとんど初めてなので、デザインの評価の方法がよく分かりませんでしたが、さほど問題ないように思います。さらなる交絡因子は検討する必要があったかもしれませんが。limitationとして本文には、「un-measured changes in behavior, illness severity, or environment」が交絡因子になりうるとの記載があります。

あと性別は圧倒的に女性が多いですが、ゾルピデムは女性の方が代謝が緩徐なので、開始用量の減量がFDAより推奨されていますので、そういったあたりの影響も気になるところです。

(FDAのページ:https://www.fda.gov/drugs/drugsafety/ucm334041.htm

PDF:https://www.fda.gov/downloads/drugs/drugsafety/ucm335007.pdf

メディカルトリビューンによる日本語訳(会員限定):https://medical-tribune.co.jp/mtpronews/1301/1301018.html)

 

全体を通して

エスゾピクロンが他のベンゾジアゼピン系薬よりも転倒や大腿骨近位部骨折等のリスクが低いことが伺えました。まだまだ研究が少ないのですが、期待はできるのかな?という印象です。効果、有害事象の苦みというのも気になるところです。