リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

認知症のBPSDの治療薬もろもろ-6【抗精神病薬の肺炎リスク】

以前に抗精神病薬と死亡リスクとの関連はこちらこちらで取り上げましたので、今回は肺炎リスクをみていきたいと思います。取り上げた全ての文献において、必ずしもBPSDに使われたというわけではないようなので、ご承知ください。

 

その前に、Practice Guideline for the Treatment of Patients With Schizophrenia(APA practice guideline 2010)

抗精神病薬の副作用について簡単にまとめてありましたので、まずはそのご紹介を。P30の表がこちらです。

 

f:id:gacharinco:20170930224946p:plain

日本語に訳して、日本で発売されている薬剤のみをまとめたのがこちらです。某研修でこちらのガイドラインの存在を教えてもらい、その時の訳も参考にしております。間違っていたらすみません。

f:id:gacharinco:20170930225142p:plain

 

てことで肺炎リスクをみていきます。

まずはアブストラクトのみしか読めませんが、観察研究のメタ解析を一つ。

Antipsychotic drug exposure and risk of pneumonia: a systematic review and meta-analysis of observational studies.

(抗精神病薬暴露と肺炎リスク)

Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015 Aug;24(8):812-20.

PMID: 26017021

 

P:若年者、高齢者を含めた抗精神病薬を服用中、過去の服用歴有または非投与患者

E:第1世代または第2世代抗精神病薬の現在の服用

C:過去の服用歴有または非投与

O:肺炎

 

デザイン:観察研究のメタ解析

その他のアウトカム:年齢との関連、薬剤別のリスク

 

結果

〇1次アウトカム(抗精神病薬内服による肺炎リスク)

第1世代抗精神病薬:OR 1.68,95%CI:1.39-2.04,I²=47%

第2世代抗精神病薬:OR 1.98,95%CI:1.67-2.35,I²=36.7%

 

〇その他のアウトカム

高齢・若年層間でリスクは類似していた。

・薬剤別のリスクに関しては、研究が少なかった。

 

考察

やや異質性は高くなっていますが、抗精神病薬により肺炎リスクは上昇することが示唆されております。

個別の薬剤の知見が少なく、リスクの差があるかどうかわからないのは残念です。

 

 

次は、抗精神病薬の使用と肺炎による入院や死亡リスクをアルツハイマー病の有無によって解析した文献を。

Antipsychotic Use and Risk of Hospitalization or Death Due to Pneumonia in Persons With and Those Without Alzheimer Disease.

(アルツハイマー病の有無による抗精神病薬の使用と肺炎による入院や死亡リスク)

Chest. 2016 Dec;150(6):1233-1241.

PMID:27298071

 

P:フィンランドにて2005年から2011年までにアルツハイマー病(AD)の診断を受けた患者全員 (n=60,584;うち肺炎発症のn=12,225)とADではないコホートとマッチされた人(n=60,584;うち肺炎発症のn = 6,195)。

E:抗精神病薬の使用

C:抗精神病薬の非使用

O:肺炎による入院および死亡

 

デザイン:症例対象研究

その他のアウトカム:使用期間(1ヵ月未満、1~3ヵ月、4~6ヵ月、7~12ヶ月、1年以上)、薬剤別(クエチアピン、リスペリドン、ハロペリドール)による肺炎発症率の差、5範囲分位による年齢別の肺炎発症のHR

マッチング:されている

調整された交絡因子:調整はされているが、調整されている種類が多すぎて…

 

結果

〇1次アウトカム(抗精神病薬服用の有無による、認知症および非認知症における肺炎による入院または死亡)

AD群:抗精神病薬群9.52/100人/年vs非抗精神病薬群4.83,aHR 2.01;95%CI:1.90-2.13(感度分析- OR, 2.02;95%CI:1.75-2.34)

非AD群:抗精神病薬群10.21vs非抗精神病薬群2.38,aHR 3.43;95%CI:2.99-3.93(感度分析- OR 2.59;95%CI:1.77-3.79)

〇その他のアウトカム(使用期間、使用薬剤による肺炎発症率の差(Table2))

・服用期間が長くなるにつれ、リスクは減少する傾向あり(最初の1ヵ月が圧倒的に高い)

・リスペリドンに比べて、クエチアピンでリスクが低い傾向、ハロペリドールで有意にリスクが高い

f:id:gacharinco:20170930230000p:plain

〇その他アウトカム(5範囲分位による年齢別の肺炎発症のHR(Table3))

・最低年齢層で一番リスクが高い。

 

考察

ADの有無に関わらず、抗精神病薬によるリスク上昇が示唆されております。HR自体は非AD群の方が大きいですが、非使用者ではAD群の方のイベント数が多く、ADがリスク因子なのかもしれません。非AD群の非使用者でのイベント数が少ないのが気になりますが。

服用期間が長くなるにつれてリスクの減少する傾向は顕著にみられ、最初の1か月が圧倒的に多い結果です。薬剤別に関しては、ハロペリドール群にてリスクがやや大きい傾向となりました。

あと感度分析に関してはケースクロスオーバー試験をしておりましたが、上手く解釈できていないので、今回は見て見ぬふりをしますね。

 

最後に、非定型抗精神病薬の薬剤別の肺炎リスクを調査した文献を。

Comparative safety of atypical antipsychotics and the risk of pneumonia in the elderly.

(高齢者における抗精神病薬の安全性の比較と肺炎リスク)

Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015 Dec;24(12):1271-80.

PMID:26445931

 

P:65歳以上の新規抗精神用薬使用者(合計92,234人。41,780人(45.30%)がクエチアピン、31,048人(33.66%)がリスペリドン、11,375人(12.33%)がオランザピン、6,790人(7.36%)がアリピプラゾール、1,241人(1.35%)がziprasidone)

E:クエチアピン使用者

C:クエチアピン以外使用者

O:肺炎発症(合計12,411人(13.46%)が肺炎を発症した。)

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

追跡期間:1年以内

 

結果(肺炎発症リスクのハザード比)

リスペリドン群vsクエチアピン群:HR 1.14, 95%CI:1.10-1.18

オランザピン群vsクエチアピン群:HR 1.10,95%CI:1.04-1.16

その他の薬剤に関しては、アブストラクトには記載なし。

 

考察

クエチアピンに比べてリスペリドン、オランザピンの方がややリスクは高かったですが、ほとんど同じかなという印象で、これを見て処方動向が変わる可能性は低いかなと思います。死亡リスクに関してもクエチアピンの方が低いことは他の研究にて示唆されておりますので、基本的にはクエチアピンを優先して使うのがいいかなと思います。

 

全体を通して

抗精神病薬の服用にて、肺炎のリスクは上昇することが示唆されております。全体としてのリスクは2倍くらいなのかなと。それも投与初期が多いようです。薬剤間でも多少は差があるけど、そんなに気にしなくてもいいのかなという印象です。

こういったことを念頭に置いて、特に服用開始時は注意していかないといけないと感じました。