リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

COPD患者にカルベジロール?

COPDの急性増悪により入院になった方がいらっしゃいまして。心不全を合併していたのでβブロッカーとしてカルベジロールが使われておりました。カルベジロールは喘息に禁忌だけど、COPDへの影響はないのだろうか…と思い、調べてみました。

2つの文献をピックアップしました。

 

Impact of β-blocker selectivity on long-term outcomes in congestive heart failure patients with chronic obstructive pulmonary disease.

(COPDとうっ血性心不全を合併している患者への選択的βブロッカーの長期予後への影響)

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015 Mar 5;10:515-23.

PMID:25784798

 

P: COPDのある急性非代償性心不全患者(n=132)

E: βブロッカー群(n=86,カルベジロール52例、ビソプロロール34例)

C:非βブロッカー群(n=46)

O:総死亡率

 

デザイン:後ろ向き、非ランダム化、単一施設

地域:日本

2次アウトカム:カルベジロール群、ビソプロロール群での総死亡率、CHFまたはCOPDの増悪による入院率の差。

平均追跡期間:33.9か月

除外基準:急性心筋梗塞を含む急性冠症候群患者(n=34)、透析を必要とする末期腎疾患患者(n=14)、退院後に治療コースを終了しなかった患者(n=32)

脱落率:退院後治療コースを終了しなかった患者(n=32)を脱落とすると、20%(薬剤による内訳は不明)

ベースライン:EF(駆出率)(%)が、カルベジロール群とビソプロロール群で有意差あり。その他、有意差はついていないものの数字に隔たりがあるように見受けられるものもあるが。

 

結果

1次アウトカム(総死亡率:βブロッカー群vs非βブロッカー群)

E群9人(10.5%) vs C群12人(26.1%)(log-rank P=0.039)

※単変量解析によるβブロッカーの使用について

非調節ハザード比:0.41 (0.17–0.99)           

調節ハザード比:0.46 (0.19–1.11)

 

2次アウトカム(総死亡率およびCHFまたはCOPDの増悪による入院率:カルベジロール群vsビソプロロール群)

カルベジロール群35人(67.3%) vs ビソプロロール群9人(26.5%) (log-rank P=0.112)

 

2次アウトカム(総死亡率:カルベジロール群vsビソプロロール群)

カルベジロール群6人(11.5%) vs ビソプロロール群3人(8.8%) (有意差はなかったとのことだが、数値の記載はなし。)

 

2次アウトカム(COPDの増悪による入院率:カルベジロール群vsビソプロロール群)

カルベジロール群29人(55.8%) vs ビソプロロール群6人(17.6%) (log-rank P=0.033)

※多変量解析による、ビソプロロールの使用の入院率への影響について

非調節ハザード比:0.38 (0.15–0.98)、調節ハザード比:0.47 (0.18–1.24)

※多変量解析による、COPD増悪による入院歴の入院率への影響について

非調節ハザード比:2.51 (1.27–4.97)、調節ハザード比:3.11 (1.47–6.61)

 

感想

結果としては、被験者数が少ないため有意差がついていないように見受けられる項目があるように思います。βブロッカーは使用したほうがよさそうですが、使用するならカルベジロールよりもビソプロロールの方が予後には良さそうです。デザイン、被験者数等の制限はありそうですが、1つの参考にはなるのかなと思います。 

 

Carvedilol, Bisoprolol, and Metoprolol Use in Patients With Coexistent Heart Failure and Chronic Obstructive Pulmonary Disease.

(心不全COPDを合併した患者へのカルベジロール、ビソプロロール、メトプロロールの使用)

Medicine (Baltimore). 2016 Feb;95(5):e2427.

PMID:26844454

 

P: 2000年から2009年にHFとCOPDの併存と診断された患者(11,558人)

E:βブロッカーの使用(カルベジロール、ビソプロロール、メトプロロール(それぞれ高用量群と低用量群))(それぞれの人数の内訳は不明)

C:非使用

O:累積生存率

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

地域:台湾

平均追跡期間:4.07年

交絡因子の調整→年齢、性別、併存疾患、HFやCOPDの重症度にて調整

傾向スコアマッチングされているか?→されていない

 

結果

1次アウトカム(累積死亡率)

Βブロッカーの種類

用量

HR(95% CI)(多変量解析)

未使用

 

Referent

カルベジロール

(低用量:6.25mg以上50mg未満

高用量:50mg以上)

低用量

1.00 (0.83–1.21)

高用量

0.81 (0.56–1.18)

ビソプロロール

(低用量:1.25mg以上10mg未満

高用量:10mg以上)

低用量

0.76 (0.59–0.97)

高用量

0.40 (0.26–0.63)

メトプロロール

(低用量:25mg以上200mg未満

高用量:200mg以上)

低用量

0.60 (0.29–1.26)

高用量

0.36 (0.09–1.43)

 

感想

試験デザイン等は、特に問題となるところはないように思います。

カルベジロールは非使用群と差がなく、ビソプロロールは有意に死亡率が低下するという結果でした。メトプロロールは有意差こそついていませんが、ハザード比はビソプロロールと同じだけ下がっているので、症例数が少なかったと推測されます。ビソプロロールと同等くらいの効果はあるかもしれません。

また、これらの効果は用量依存性であることも示唆され、セオリーどおり忍容性がある限りは増量した方がいいのかもしれません。しかしまあ、海外の用量はかなり多いですね。。。

 

まとめ

これらの文献を見る限りでは、βブロッカーは使用した方がよさそうですが、カルベジロールよりはビソプロロールにて継続した方が良さそうです。