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リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

認知症のBPSDの治療薬もろもろ-2

今回は、前回に引き続き認知症のBPSD治療に用いる抗精神病薬の死亡リスクについての文献を読んでいきます。

前回紹介したもの以外の4つ、目ぼしいものを見つけたので、古い方から順に紹介していきます。

 

Risk of death in elderly users of conventional vs. atypical antipsychotic medications. - PubMed - NCBI

N Engl J Med. 2005 Dec 1;353(22):2335-41.

PMID:16319382

 

P:ペンシルベニア州の65歳以上で、定型または非定型抗精神病薬を処方され始めた22,890人

E:非定型抗精神病薬群(9,142人)

C:定型抗精神病薬群(13,748人)

O:服用開始180日以内、40日未満、40-79日、80-180日の、非定型抗精神病薬群と比較しての定型抗精神病薬群の死亡率の相対危険度(RR)

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:用量の違いによる死亡リスクの差、認知症の有無による死亡リスクの差、ナーシングホーム入居かどうかによる死亡リスクの差(明示はされていない)

傾向スコアマッチング:されていない。

交絡因子:調整されている(Table2の下に記載あり。)

 

結果

・180日以内の死亡率:非定型抗精神病薬群14.6%、定型抗精神病薬群17.9%

・ 抗精神病薬による治療開始後180日以内の死亡リスク(非定型vs定型)

f:id:gacharinco:20170212170006p:plain

 

感想

前回取り上げたRisk of death associated with the use of conventional versus atypical antipsychotic drugs among elderly patients.( N Engl J Med. 2005 Dec 1;353(22):2335-41.

PMID:16319382)と結果もデザインも非常によく似ています。定型抗精神病薬群よりも非定型抗精神病薬群の方の死亡リスクが高いこと、それは服用開始初期により差が認められること、認知症の有無、ナーシングホームに入居しているかどうかでその傾向は変わらない、というエビデンスが強化された印象です。こちらの論文の方が先ですけどね。

参加者の約半数が認知症であり、認知症患者群と非認知症患者群では、やや非認知症患者群の死亡リスクが高かったのが少し気になるところではありますが、認知症患者のみの解析でも非定型の方が安全なようです。

 

All-cause mortality associated with atypical and conventional antipsychotics among nursing home residents with dementia: a retrospective cohort study. - PubMed - NCBI

J Clin Psychiatry. 2009 Oct;70(10):1340-7.

PMID:19906339

 

P:アメリカの5つの州のナーシングホーム入居者における9,729人

E:3,205人の定型抗精神病薬の使用者

C:6,524人の新規の非定型抗精神病薬の使用患者

O:定型抗精神病薬新規使用患者の非定型抗精神病薬新規使用患者と比べての開始180日での死亡リスク(癌以外)

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:リスペリドンを対照群とした、薬剤別の死亡リスク等(明示されていない)

傾向スコアマッチング:されていない。

交絡因子:調整されている。

 

結果

・1次アウトカム:調節後ハザード比, 1.26; 95% CI, 1.13-1.42

・その他(リスペリドン群と比較した、個別の薬剤の死亡リスク)

f:id:gacharinco:20170212170114p:plain

 

感想

今回は認知症のナーシングホーム入居者というある程度限定された患者群であった。

薬剤別では、定型抗精神病薬がいずれもリスペリドンと比べて、有意な死亡リスク増加、またはリスクの増加傾向を示した。

やはり、使うのであれば非定型抗精神病薬を優先すべきか。

 

Risk of mortality among individual antipsychotics in patients with dementia. - PubMed - NCBI

Am J Psychiatry. 2012 Jan;169(1):71-9.

PMID:22193526

 

P:抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ハロペリドール)またはバルプロ酸およびその誘導体(非抗精神病薬の比較として)にて、外来で治療が始まった65歳以上の認知症患者33,604人

E:オランザピン、クエチアピン、ハロペリドールバルプロ酸およびその誘導体

C:リスペリドン

O:リスペリドンを対照群としての個々の薬剤の治療開始180日の死亡のリスク比

 

研究デザイン:後ろ向きコホート研究

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:使用薬剤の用量のハロペリドール換算

傾向スコアマッチング:行われている。

交絡因子:調整されている。

 

結果

・個々の薬剤のリスペリドン群と比較しての死亡リスク比(propensity-weighted model、ITT解析)

オランザピン:ハザード比1.03,95%CI 0.92-1.16

クエチアピン:ハザード比0.74,95%CI 0.67-0.81

ハロペリドール:ハザード比1.57,95%CI 1.39-1.78

バルプロ酸およびその誘導体:ハザード比0.97,95%CI 0.83-1.14

f:id:gacharinco:20170212170256p:plain

 

感想

・他剤に比べてのハロペリドールの死亡リスクの高さが際立っている。逆にクエチアピンはより安全なよう。バルプロ酸抗精神病薬の代替薬と使用しても、死亡リスクに変化はなさそう。

・Table4の下表を見ると、ハロペリドールの用量が多くなっている。同程度の効果を得るには、より多くの用量が必要なのか?Table1を見る限り、特別に重症例に使われやすいということもなさそう。

 

Differential risk of death in older residents in nursing homes prescribed specific antipsychotic drugs: population based cohort study. - PubMed - NCBI

BMJ. 2012 Feb 23;344:e977.

PMID:22362541

 

P:ナーシングホームに入居している65歳以上の75,445人の新規の抗精神病薬(ハロペリドール、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン)使用者。

E:ハロペリドール、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、ジプラシドンの新規使用

C:リスペリドンの新規使用

O:個別の薬剤の使用開始180日間の(がんを除く)総死亡率の比較

 

研究デザイン:人口ベースのコホート研究

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:明示されていない。

傾向スコアマッチング:行われている。

交絡因子:調整したが、残存している交絡因子があるかもしれないとの記載あり。

 

結果

・個々の薬剤のリスペリドン群と比較しての死亡リスク比(傾向スコア調整後)

f:id:gacharinco:20170212170213p:plain

・治療開始後日数の影響

ハロペリドール:最初の40日未満(傾向スコア調整後のハザード比(aHR)2.34,2.11 - 2.60) 、40日から79日(aHR1.32 1.02 - 1.71) 、80日から180日(aHR1.46 (1.07 - 2.00)。

クエチアピン:aHR0.74 (0.66 - 0.82), aHR0.87 (0.75 - 1.01), aHR0.91 (0.79 - 1.05)

 

感想

クエチアピンの安全性(と言ったら言い過ぎのような気がしますが。どちらかというと、他の薬剤が高いというべきですかね。)とハロペリドールのリスクの高さが目立った印象です。投与初期のリスクが高いというのは、これまでの研究と同じですね。

用量との関係に関しては、Fig3,4に記載してありますが、クエチアピン以外は用量が多くなると、リスクが高くなるという結果となっております。

 

 

Antipsychotics, other psychotropics, and the risk of death in patients with dementia: number needed to harm. - PubMed - NCBI

JAMA Psychiatry. 2015 May;72(5):438-45.

PMID:25786075

この文献も読んでみたのですが、症例対象研究であり、私の解釈が難しかったので、今回は取り上げるのを止めました。

Table2のリスク差とNNHの計算が、自分の計算と合わなかったこともあり…

 

 

4つ見終わりましたが、もう少しお付き合いください。

昨年、日本におけるアルツハイマー病に対する抗精神病薬の死亡リスクの発表がありました。

 

Mortality risk in current and new antipsychotic Alzheimer's disease users: Large scale Japanese study. - PubMed - NCBI

Alzheimers Dement. 2016 Jul;12(7):823-30.

PMID:27106669

正直、アブストラクトに書いてある内容が薄くて、全文読めないので、中の紹介はしませんが…

詳細はm3.comで少し紹介されていますので、よろしければご覧ください。

https://www.m3.com/clinical/news/433047?pageFrom=tb&portalId=simpleRedirect

 

また、昨年「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」が出ております。個人的にはあまり好きじゃないですが。ちょっとうさんくさい…

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20160418_01_01.pdf

 

さらに、米国精神医学会より「認知症患者に対する抗精神病薬使用に関するガイドライン」が昨年出ておりますので、そのリンクも貼っておきます。

APA Releases New Practice Guidelines on the Use of Antipsychotics in Patients with Dementia

m3.comには訳の記載があります↓

https://www.m3.com/clinical/news/425342

 

まとめ

いくつか文献を読んでみましたが、おおむね同じような結果でした。

・死亡リスク(分類別):定型抗精神病薬>非定型抗精神病薬>プラセボ

・死亡リスク(薬剤別):ハロペリドール>リスペリドン(=オランザピン)>クエチアピン

抗精神病薬は使用開始初期の方が、死亡リスクが高い(特にハロペリドール)。

ハロペリドール、リスペリドン、オランザピンは、用量依存的に死亡リスクが上昇するが、クエチアピンはそうではないかもしれない。

・交絡因子はまだ存在するかもしれない。

 

抗精神病薬の死亡リスクについてはよく理解できた気がします。

次は死亡以外のリスクについてみていきたいと思います。早く効果をみたいけど、それはもう少し後で。